京都を代表する名店の味を受け継ぐ天ぷら店

和食編
スポンサーリンク

天ぷら 鈴

てんぷら屋に行くときは
腹をすかして行って、
親の敵(かたき)にでも会ったように
揚げるそばからかぶりつく
ようにして食べなきゃ

池波 正太郎「男の作法」新潮文庫 より

昭和を代表する大作家であり、「グルメエッセイスト」の第一人者でもあった池波正太郎。相当な美食家としても知られ、東京都出身でありながら頻繁に京都へ出向き、京都の食を楽しんだと言われています。池波正太郎が愛した京都の料理店のいくつかは現在でも営業していますが、さすがに高級店が多く、その足跡を辿るのはなかなか難しいと言わざるを得ません。ただ、「男の作法」でも触れられているように、その思想や考え方は真似できそうです。

池波正太郎のグルメエッセイを読んでいると、かなりの大食い健啖家であることが伺えます。「ポーク・カツレツで日本酒を楽しみ、その後は串カツレツでご飯をいただく」とかサラッと書かれていますが、普通はトンカツか串カツのどちらか一品でしょう。どっちも食べたら胸焼けするわ。ただ“粋だなぁ”とは思いますね。トンカツに日本酒は一見合わなさそうで、実はお腹がふくれるビールよりもトンカツの味を引き立たせる日本酒に着目するあたりが、並のグルメエッセイストではありません。

今回は池波正太郎を真似て、親の敵(かたき)にでも会ったように天ぷらを食べることに決めました。カウンター割烹スタイルで、揚げたての天ぷらを目の前で提供してくれるお店です。基本、このようなスタイルの天ぷら屋は高級店で、管理人が行けるようなお店ではありません。しかし、烏丸鞍馬口にある「天ぷら 鈴(すず)」なら大丈夫。京都の名店「京都祇園 天ぷら 八坂圓堂(やさかえんどう)」で修行され、開業して2年経ったばかりの新進気鋭の天ぷら店です。本格的な天ぷらをリーズナブルな値段で食べられることもあり、すでに多くのお客さんから人気を集めています。

夜も高くはありませんが、本日10月14日は日曜日でもあったため、ランチとして伺いました。「鈴定食」および「海老天丼」¥970からいただけます。今回は海老2・魚1・穴子・野菜2・しいたけ海老詰の定食「北山」¥1,570を注文してみました。ご飯・赤だし付きで、高級店なみの天ぷらを堪能できる定食です。

まずは「大根おろしの天つゆ」と「特製塩」がカウンターに置かれます。

「特製塩」はパウダースノーのようなきめ細かな塩で、ほのかな甘味があり、宮古島の雪塩に似ているように感じました。大根おろしは粗めにおろされた鬼おろし。ここは評価が分かれるところですが、何か理由があって鬼おろしにされているのでしょう。個人的には、鬼おろしより細かくおろしたほうが、口当たりや食感が良いような気がするのですが。

いよいよ「海老2本」と「茄子」が置かれましたので、憎い仲良しカップルを思い浮かべながらかぶりつきます。

軽い口当たりのコロモはサクサクで、さすがの味わいです。海老は1本を塩で、1本を天つゆでいただきます。塩は海老の旨味がダイレクトに伝わるおいしさ。天つゆは海老の風味が口の中に広がります。そして茄子は、トロッとした茄子の甘味がうれしい一品。普通の茄子天とは次元の異なる味わいです。

次に「しいたけ海老詰」と「ピーマン」。女性に無条件でモテている若い男前の後輩を思い浮かべながらかぶりつきます。

肉厚のしいたけに海老のすり身が揚げれた、仕事が光る一品です。旨味が凝縮された味わいは、必食と言えるレベルではないでしょうか。そして驚いたのがピーマン。最初は“えっ?ピーマン??”とあまり期待していなかったのですが、野菜本来の甘味が押し出されつつ、かすかな苦味もある絶妙な味となっています。天ぷら種でピーマンはほとんど未経験でしたが、ピーマンの新たな魅力を発見させていただきました。

そして「シメジ」「穴子」「サワラの大葉巻」です。無理難題ばかり押し付けてくる一部クライアントを思い浮かべながらかぶりつきます。

「シメジ」は秋そのものの味ですね。野山の味であり、郷愁を誘います。「穴子」は間違いのないおいしさ。質のいい穴子の一番おいしい食べ方でしょう。江戸前寿司の煮穴子もおいしいですが、穴子の旨味をストレートに感じられるのは天ぷらに軍配が上がります。そして「サワラの大葉巻」。キスなどの白身魚ではなく、大葉の風味に負けない青魚のサワラが口いっぱいに感じられる天ぷらです。計算された創意工夫と確かな技術が、サワラの魅力を存分に引き出していると感心しました。

池波正太郎の「男の作法」通りに食べたつもりですが、少し病んだ食べ方だったような気がしないでもありません。食べ方はともかく、質が高くリーズナブルな天ぷら店なのは間違いないでしょう。京都の有名天ぷら店で体得された味を、気軽に楽しめるお店です。地下鉄「鞍馬口」すぐのスーパーマーケット「鞍楽(くらら)ハウディ」から烏丸通を渡った向かい側に「天ぷら 鈴」がありますので、この近辺に来られた方は池波流にお腹をすかせてから 訪問してみてください。

[2018年10月14日訪問]

天ぷら 鈴
●住所…京都市北区上御霊上江町232-3
●TEL…075-414-3790
●定休日…火曜日(月曜日はランチのみ営業)
●備考…店内禁煙
●ホームページ…なし
※詳細は食べログ「天ぷら 鈴」で検索してください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました