大黒屋 本店 【閉業】
※お知らせ※
1916年(大正5年)から続く老舗店「大黒屋 本店」が閉業されていました。京都の蕎麦文化を担う1軒であっただけに残念で仕方ありません。支店の「大丸店」は営業されているようですので、ぜひそちらをご利用ください。
先日、電車に乗ってウトウトしていると、後ろに座っていた若い女性2名組が“去年のうちにしようと思っていたことができなんだ〜”と嘆いていました。管理人クラスの上級者ともなれば“去年のうちにしようと思ってできたことの方が珍しい” ので、そんなことで嘆いたり、悩んだり、悔やんだことはありません。ただ、少しだけ心残りがあるとすれば、結局「鴨南蛮(蕎麦)」をREPORTできなかったことでしょうか。「鴨せいろ」や「鴨なんば(うどん)」はREPORTしたものの、寒い冬には欠かせない「鴨南蛮」を食べないまま春になり、夏になり、秋になって、そのまま天に召される勢いです。それはちょっと困る、という訳で今回は「鴨南蛮」しか食べないと固く決意し、木屋町まで出かけました。
河原町通と三条通の交差点(河原町三条)から南へ200mほど行き、南車屋通を東へ100mほど行ったところにある「大黒屋 本店(だいこくや ほんてん)」。看板に大きく「生蕎麦」の文字があるように、1916年(大正5年)創業の蕎麦店です。100年以上の歴史を誇る老舗で、東隣は先日REPORTした「麺と人 京都本店」。木屋町近辺には以前REPORTした「河道屋銀華 先斗町本店」など蕎麦やうどんの老舗や名店が多いのも特徴です。「大黒屋 本店」はその筆頭とも言えるでしょう。まずは店頭のメニューを確認してみます。
ありましたよ「鴨なんばん」¥1,730。“季節のお勧めメニュー”とのことで、春まで食べずに過ごしていれば本当に来冬まで食べられないところでした。有名老舗蕎麦店ですので当然、京都人のソウルフード「にしんそば」も用意されています。ランチタイムはかなり混雑するものの通し営業のため、そろそろお客さんも落ち着いているであろう14:30に入店してみました。
店内に入ってすぐ右手には今なお現役で活躍している蕎麦を挽くための水車と石臼が鎮座しています。「生蕎麦」の看板どおり、こちらは蕎麦の実を店内で挽いて打つ、昔ながらのスタイル。水車と石臼はただのオブジェではありません。よく店頭で外から見えるように水車を回している蕎麦店がありますが、実際に蕎麦を挽いているかと言われると相当あやしいと思っていました。しかしこちらは店内に入らないとわからず、100年以上使われている水車と石臼だそうです。
ランチタイムを過ぎているにも関わらず、7割がたの座席がお客さんで埋まっていました。地元の方だけでなく観光客にも人気のお店。店内の雰囲気は意外に古さを感じられず、清潔感すらあります。では念のため、メニューを確認してみましょう。
京都を代表する繁華街だけあって、価格は一般的な蕎麦店よりは少しお高め。ただ、高級志向の蕎麦店よりはリーズナブルで、普段遣いにも利用できます。しかも通し営業ですので、木屋町近辺でちょっと小腹がすいた時などにも使い勝手がよく、お一人様でも気軽に入れます。今回はもちろん昨年の借りを返すべく「鴨なんばん」を注文してみました。
鴨(合鴨)肉5枚に白ネギ、鴨つくねという王道な「鴨なんばん」が到着。この贅沢でゴージャスなビジュアルは鴨南蛮ならではです。鶏南蛮もおいしいですが、やはり鴨南蛮には敵いません。あくまでも個人の感想ですが、鶏肉だと淡白過ぎて蕎麦やダシの風味に負けるような気がします。鴨(合鴨)の持つ少しクセのある風味と濃厚な脂の旨味が鴨南蛮の命であり、唯一無二の味わい。まずは七味をたっぷり振って、蕎麦からいただきましょう。
更科系の白い蕎麦に、ダシの風味が生きている京都らしい味わいです。蕎麦は適度な柔らかさに茹でられていて、塩味が抑えられた豊かな味のダシと合鴨肉の脂のコクがたまりません。醤油の風味がキリリと効いた関東の蕎麦もおいしいのですが、ダシ文化の関西人にとってはこれぐらいまろやかでやさしく芳醇なダシの蕎麦はありがたく感じます。特に温かい蕎麦では京都の味がしっかりわかりますので、全国の蕎麦好きに味わっていただきたいと思いました。
“鴨が葱を背負って来る” でお馴染みの出会いものでもある合鴨肉とネギ。鴨肉よりクセがなく食べやすい合鴨肉は、こちらの鴨南蛮にはピッタリのやさしい味わいです。肉の旨味、脂の甘みとも申し分ありません。そして焼いた白ネギがおいしい。ダシや合鴨の旨味、甘みを存分に吸ったネギは格別です。何なら蕎麦や鴨以上に主役となり得る味わいではないでしょうか。“鴨南蛮”の南蛮はネギの意味ですから、ネギなしで鴨南蛮が成立しないのもうなずけるおいしさでした。
鴨南蛮の〆は鴨(合鴨)つくねです。こちらの鴨(合鴨)つくねは軟骨少なめで肉多いめのタイプ。合鴨肉のやさしい味わいは日本酒好きならお酒がグイグイ進む味わいだと思います。すべて食べ終わる頃には身体がポカポカと心地よくなるのも鴨南蛮の特徴です。京都の底冷えする寒い冬には、ぜひこちらの「鴨なんばん」で体も心もぬくもりを感じられてはいかがでしょうか。
[2020年1月4日訪問]
大黒屋 本店
●住所…京都市中京区南車屋町281(Google マップ)
●TEL…075-221-2818
●定休日…火曜日
●備考…禁煙(?)
●ホームページ
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