蕎麦のイノベーションを実現した十割蕎麦店

和食編
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十割そばカフェバー

蕎麦よりうどん派が断然多い大阪に対し、お隣の京都ではうどんも好きだけど蕎麦も好きという方が多いように感じます。実際、京都にはうどんの名店も蕎麦の名店も多く、関西地方の中でも蕎麦を受け入れやすい土壌であると言えるでしょう。現在も営業している日本最古の蕎麦店は、何を隠そう京都市の烏丸御池近くにある「御用蕎麦司 本家 尾張屋」。創業は1465年(寛正6年)、応仁の乱の2年前という、ほとんどおとぎ話の世界です。老舗と呼ばれる創業100年以上クラスの蕎麦店はもちろん、1990年代ぐらい以前に創業された蕎麦店のほとんどで、蕎麦粉と水だけで蕎麦を打つ“十割蕎麦(生粉打ち)”は存在しません。現在、京都でも十割蕎麦を提供する蕎麦店を目にするようになったものの圧倒的に少数派。理由としていくつか考えられますが、まず蕎麦粉と水だけで蕎麦を打つ技術が格段に難しい点が挙げられます。通常、蕎麦粉8・小麦粉2(二八蕎麦)や蕎麦粉7・小麦粉3(七三蕎麦)のように、小麦粉のつなぎを入れないと蕎麦として成立しづらく、十割蕎麦は蕎麦職人の高度な技量が必要。そして十割蕎麦は蕎麦粉を多く使うことから割高になりやすく、商売になりにくいのも大きな理由でしょう。そんな2つの要因から十割蕎麦を提供するお店は限られていたのですが、高度な職人技術と採算面を画期的な方法でクリアしたお店が、今回REPORTする「十割そばカフェバー(じゅうわりそば かふぇばー)」です。

堀川通今出川通の交差点(堀川今出川)を南へ100mほど行った東側にある蕎麦店。堀川通の西向かいには西陣織会館があります。2017年(平成29年)11月にオープンされた、“生粉打ち”ならぬ“機粉打ち”で注目を集めているお店です。“機粉打ち”とは機械で蕎麦粉を打つ、こちらで考えられた造語でしょう。つまり十割蕎麦を機械で打ってしまおうという、蕎麦業界ではかなりのイノベーションと言えるスタイル。11時開店、16時ラストオーダーという通し営業で、十割蕎麦を提供する蕎麦店によくある“(蕎麦が)売り切れ次第終了”がほぼないのも特徴です。時刻は13:30、早速店内へ入ってみましょう。

カウンター10席だけのコンパクトな店内。内装も蕎麦店らしくありませんが、それもそのハズ、もともとは40年以上前から続くスナックだったそうです。スナックの居抜き店舗ということもあり、厨房はさらにコンパクトで蕎麦など打てるスペースではありません。しかしこちらでは、十割蕎麦からうどん、パスタ、中華麺まで打てる製麺機を導入されているため、省スペースでの蕎麦打ち(製造)を実現されています。そしてお客さんの注文が通ってから製麺機で蕎麦を打ち、茹でて提供できるのが最大の特徴。蕎麦を作り置きする必要がなく、蕎麦粉さえあれば売り切れは事実上存在しないことになります。これが日本が誇るテクノロジーの実力よ。長年の修行が必要な蕎麦打ち技術がなくても十割蕎麦が作れてしまう、画期的なマシンではないでしょうか。それではメニューをご確認ください。

こちらでは十割蕎麦にも関わらず温かい蕎麦をいただけます。温かい十割蕎麦を提供している蕎麦店はほとんどありません。理由は単純で、十割蕎麦の特性上、温かい汁に浸すと蕎麦がボソボソと崩れるから。つなぎの小麦粉が入っているからこそ、温かい蕎麦を提供できる訳です。温かい汁に浸しても崩れない十割蕎麦を提供されている蕎麦店もなくはないのですが、そんなことができるのは超難度な技術を習得した、ごく一部の蕎麦打ち職人に限られます。それをこれまで通信機器の販売をされていたご主人が、マシンの力で実現されているのは驚くほかありません。そしてもう1つ驚かされるのが価格です。十割蕎麦とは思えない低価格。「ざるそば 鬼盛300g」¥1,100など、一般的な蕎麦店レベルのリーズナブルな価格設定となっています。今回は種モノも試してみたかったこともあり、一般的には鴨せいろを呼ばれている「鴨ざる 大盛」¥1,700を注文してみました。

ドドン!とボリューム満点の十割蕎麦に心踊ります。そしてつけ汁にも鴨とネギがたっぷり。鴨の脂が間違いのないおいしさを予感させる仕上がりです。打ち立て、茹でたての蕎麦はサッサと食べないと失礼ですので、早速いただきましょう。

十割蕎麦とは思えないコシです。蕎麦粉と水だけでこれほどのコシが生まれるのは、まさにテクノロジーのおかげでしょう。手打ちの十割蕎麦と比較しても、このコシとなめらかさは見事と言う以外にありません。蕎麦の香気は少し弱く感じるものの、蕎麦の風味はしっかりと感じられます。そしてつけ汁もしっかりおいしい。塩梅もちょうどよく、合鴨、そしてネギの味わいを堪能できます。脂身少なめのヘルシーな合鴨でしたが、このつけ汁であれば脂身が多めの合鴨でも十分に受け止められるでしょう。

“蕎麦の革命”とも言えるお店です。ご主人と少しお話させていただいた際、こちらの製麺機を使った出張蕎麦打ち教室も開催されていると伺いました。定年退職され自宅で蕎麦店を開業したいシニア世代など、多くの方が受講されているようです。こちらのマシンで作られた十割蕎麦が全国のあちらこちらで提供される日も遠くないのかも知れません。“機粉打ちの十割蕎麦”の味を試してみたい方は、ぜひこちらまで足をお運びください。

[2020年3月8日訪問]

十割そばカフェバー
●住所…京都市上京区村雲町406-1 福井ハイツ1F(Google マップ
●TEL…090-4560-7000
●定休日…火曜日
●備考…禁煙
●ホームページ…ホームページ/twitter

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