今井食堂
海がない京都市民にとって、昔から食べられてきた魚と言えば「サバ」。現在、寿司店や和食店などで提供されている「鯖寿司」はその名残ですが、庶民にとってはご馳走で、かつては祭などの特別な行事の日に各家庭で作られていました。そもそも鯖寿司にするほどの立派なサバは値も張ります。普通サイズのサバは安価ながら鯖寿司にはできない(してもおいしくない)ため、普段の食事で焼きサバや煮サバとして食べられていました。特に秋から冬にかけての脂が乗りまくった寒鯖は煮サバにすれば最高です。京都人が“サバの炊いたん”と呼ぶ煮サバは、一般的な味噌煮ではなく醤油とショウガで煮ます。この醤油煮、関西ではスタンダードなのですが全国的にはマイナー。京都人や大阪人がサバの味噌煮と遭遇するとほぼ間違いなくカルチャーショックを受けるハズです。特に京都は大阪とは異なり、鮮魚に乏しい時代が長らく続いたこともあって、煮サバは深く親しまれてきました。そんな京都の“サバの炊いたん”文化を今に伝えているのが上賀茂神社の近くにある「今井食堂(いまいしょくどう)」です。

上賀茂神社の入口から50mほどのところにあり、もともとはうどん屋さんだったそうですが、管理人が知る40年以上前にはすでに「さば煮」が看板メニューの食堂でした。外観は数年前に改装されています。改装前はかなりボロボロな年季の入った外観でした。京都で煮サバやさば煮と言えば真っ先に名前が挙がるお店で、以前は主に地元の方や近隣の京都産業大学の学生が利用する、知る人ぞ知る名店だったように思います。しかし京都観光がブームとなり、また上賀茂神社が世界遺産に認定されるなどで観光客が増加。こちらにも多くの観光客が訪れるようになり、今では利用客の半数以上は外国人観光客では?と感じるほどになっています。現在、営業時間は11時〜14時と短時間なこともあり、常に満席で行列ができていることも少なくありません。行列に並ぶのはできるだけ避けたいスタイルの管理人は、営業開始時刻の11時に到着して店内へ入ってみました。


カウンター10席程度だけのお店です。開店早々、若い男性ビジネスマン1名が注文されていて、妙齢の主婦2名はテイクアウトを頼んでおられました。昔も今も特に京都産業大学の運動部員に人気のようで、壁には部員やOBの新聞記事などが所狭しと貼られています。内装も改装されキレイになっているものの、この独特な座席の配置は昔のまま。管理人のようなコミュ障にはありがたい座席です。ではメニューを確認してみましょう。


店内で食べられる定食メニューは3種類のみ。しかもあくまでネット情報でウラは取れていませんが、土日祝は「おすすめ定食」¥770および「さば煮定食」¥720とも限定20食だそうです。ちなみに定食メニューは3種類ともお弁当にしていただけます。ただし、近くの賀茂川の川原でお弁当は食べない方がいいでしょう。運が悪ければ上空からトンビに急襲され、サバやオカズを強奪されますよ。今回は「さば煮(小)」に「チキンカツ」と「コロッケ」、「おつゆ」、「玉子やき」が付く「おすすめ定食」を注文してみました。

ボリューム満点で運動部員が喜ぶのもうなずけます。まずは「おつゆ」をひとすすり。「おつゆ」とは味噌汁や吸い物の京都弁で、ここでは味噌汁を指します。大きめの大根と薄揚げ、そして少し甘めの味噌は昔とまったく同じ味わいで、やわらかく煮上げられた大根がおいしい。「玉子やき」は出汁巻きで、昔からある京都の家庭の味がします。揚げたての「チキンカツ」と「コロッケ」も食べごたえがあり、ご飯のオカズにぴったり。どの料理も家庭的なおいしさがあり、満足できるのではないでしょうか。それでは、「さば煮(小)」をいただいてみましょう。

こちらの「さば煮(小)」は3日間煮込まれていることで有名です。サバは筒切りとなっていて骨まで食べられます。一般的な京都の煮サバは1時間前後煮ることがほとんどで、管理人が知る限り骨まで食べられるほどの煮サバを提供する飲食店は、こちら以外では1〜2軒ぐらいでしょうか。味付けは3日間煮込まれている割に塩っぱくなく、甘じょっぱい味わいはご飯のオカズとしては最強クラスです。身も骨もホロホロと崩れ、サバの旨味を存分に味わえます。サバに限らず多くの魚の煮物はあまり煮過ぎると身から旨味が抜けてパサパサしがちなものの、こちらの「さば煮」は特に腹身の部分が絶品。脂や旨味がしっかりと残っていて、自宅では作れないプロの味を堪能することができました。
管理人が「おすすめ定食」をいただいていると、次から次へと外国人観光客が入店。あっという間にほぼ満席となったこともあり、急いで食べ終えお会計を済ませます。最初は“外国人が煮サバ?”と思っていたのですが、よく考えれば「テリヤキソース」は世界的にも人気で煮サバと近い味なこともあり、意外と抵抗なく食べられるのかも知れません。しかも骨を出す手間が不要で、ガブリとかぶりつけるのも魅力なのでしょう。昼間の3時間しか営業しておらず行列に並ぶ覚悟がないとオススメはできませんが、京都で最も有名な煮サバを食べてみたい方は、ぜひ一度訪ねてみてはいかがでしょうか。
[2019年10月26日訪問]
今井食堂
●住所…京都市北区上賀茂御薗口町2(Google マップ)
●TEL…075-791-6780
●定休日…水曜日
●備考…禁煙
●ホームページ…なし
※詳細は食べログ「今井食堂」で検索してください。
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