豆禅
中国で創作された小説「西遊記」。日本でもドラマや舞台、漫画などにされている人気の物語です。実在の高僧である玄奘三蔵が唐(現在の中国)から天竺(現在のインド)へ向かう道中の困難を架空の神仙の力を借りて克服するお話で、中でも有名な孫悟空は物語の主役。そしてちょっと抜けているもののどこか憎めない猪八戒も重要なキャラクターとなっています。猪八戒はもともと天界で天蓬元帥と呼ばれる水軍の司令官として活躍し、その実力は折り紙付き。ただ女性にだらしないことが災いして天帝の怒りにふれ、地にあるブタの体内へ落とされてしまいました。ブタの妖怪となり悪事を繰り返しますが転生前は天界で有能な神仙だっただけあって、観音菩薩にこれ以上悪事に手を染めるなと諭され、従います。その後、天竺への旅の途中であった玄奘三蔵と出会い弟子となって付けられた名前が「猪八戒」です。ブタ(猪)が八つ戒めを守るという意味で名付けられた“八戒”とは、三厭五葷を食べない誓いのこと。三厭は鳥・獣・魚の肉、五葷はネギ(タマネギ含む)・ニンニク・ニラ・ラッキョ・アサツキ(ワケギ含む)を指します。現在の仏教寺院でも入口に「不許葷酒入山門(葷酒山門に入るを許さず)」と書かれている場合があるのは、酒と五葷を寺に持ち込んではいけないという意味です。実際、精進料理では肉や魚だけでなく、五葷も原則として使われていません。そんな寺院の精進料理クラスの厳格なルールを実践している個人経営のラーメン店が豆乳ラーメン専門店「豆禅(とうぜん)」です。

ホームページを見ると“禅世界初のNeo精進料理系豆乳ラーメンの隠れ家的レストラン”と書かれています。下鴨本通(河原町通)と北大路通の交差点(下鴨本通北大路/洛北高校前)を東へ400mほど行った下鴨エリアにあり、管理人の自宅近所。当然、お店の前はよく通っていたのですが、これまで伺ったことはありません。しかし世界的なヴィーガン(絶対菜食主義者)ブームもあって、京都に来られる外国人に人気のお店なのは知っていました。ラストオーダーは21:30と比較的遅くまで営業されていることから、仕事帰りに行けるタイミングを狙っていた訳です。お店に到着したのは21時、ちょうど2名の外国人客がお店を出られたところで店頭のメニューを確認します。

バターもミルクも使っていないのに、ケーキやアイスクリームなどのスイーツメニューがあるのには驚きました。しかもこちらはラーメン店。ヴィーガン向けラーメンなんて人生で一度も食べたことがありません。精進料理は何度かいただいたことはありますが、ラーメンはもちろん出てきません。どのような味なのか気になりますので、早速店内へ入ってみましょう。

長細い玄関を抜け、靴を脱いで店内へ入ります。テーブル席を案内されて店内をガンガン撮影していたのですが、よく見るとアチラコチラに「店内撮影禁止」のPOPがあり慌てて撮影を中止。幸い、ラストオーダー間際だったためかお客さんはおらず、お客さんに迷惑をかけることはなかったものの、大変申し訳ございませんでした。よって今回は店内写真をお見せすることができません。アットホームな雰囲気でお一人様でも安心して利用できそう、カウンター席とテーブル席がありカップルやグループでの利用も大丈夫、といった店内であることをお伝えしておきます。では改めてメニューを確認してみましょう。


ラーメンは「ムサシ」と「大豆ミートの坦々風」ともに¥1,200の2種類の豆乳ラーメンが用意されています。豆乳ラーメンの決め方は以下のとおりです。
① 豆乳ラーメンを選ぼう
今回は「ムサシ」とし、山椒は①普通(無料)を選びます。
② 麺の量を選ぼう
S(120g・無料)・M(180g・無料)・L(240g・無料)の中から、今回はS(120g・無料)を選びます。
③ 麺の種類を選ぼう
細麺(無料)・米粉麺(+¥100)・クロレラ麺(+¥200)の中から、今回は細麺(無料)を選びます。
④ 好きな味を選ぼう
こっさり(完成されたコクのある豆乳スープ・無料)・クロレラS(+¥100)・クロレラW(+¥200)・麻炭S(+¥150)・麻炭W(+¥300)の中から、今回はこっさり(完成されたコクのある豆乳スープ・無料)を選びます。ちなみにクロレラはビタミンB12が豊富で健康にとてもよく、麻炭はデトックス効果が期待できるそうです。
ということでまとめると、今回は「ムサシ(山椒普通・S・細麺・こっさり)」¥1,200と「湯葉の餡かけ丼ぶり」¥600を注文してみました。シレッと丼を頼んでいますが、いつものチャーシュー丼的な感じです。

豆乳ラーメンの「ムサシ(山椒普通・S・細麺・こっさり)」と「湯葉の餡かけ丼ぶり」が到着。“こっさりって何?”という方のために解説すると、もともとは京都発祥のラーメンチェーン「天下一品」のメニュー「こってりラーメン」と「あっさりラーメン」のハーフ&ハーフのスープが“こっさり”と呼ばれ、現在では一部のラーメン店でもその名前が使われるようになりました。まずは「ムサシ」のスープをひとすすり。えっ?天下一品のこっさり??と一瞬間違えそうになる濃厚な味わいです。よくよく味わってみると鶏白湯とは少し異なる味ですが、植物性食材だけでこの味が出せるとは思えないおいしさ。そもそも何でこんなにドロドロにできるのかさっぱりわかりません。具は湯葉と水菜、シメジ、ノリ、梅肉で、意外と食べごたえも十分。この濃厚なスープと細麺の相性も抜群で、正直に告白すると“生クリームぐらいは絶対入れてるよね?”と疑うほどのコクがある絶品ラーメンでした。「湯葉の餡かけ丼ぶり」の銀餡も鰹ダシが入っていないのが不思議なほどの味わいです。トロットロの湯葉もおいしく、一般的な和食店の湯葉丼とまったく遜色がありません。これだけの味を動物性食材を使わず作り出せる技術と情熱には、ただただ感動するしかありませんでした。
会計時、応対にで出られたのがご主人でしたので、少しお話を伺います。ドロドロスープの謎は豆乳をベースに昆布やキノコ類などの旨味成分を煮詰めることで生まれるのだそうです。理論上は何となく理解できたものの、どれほどの時間をかけて煮詰めればこのスープになるのでしょうか。おそらく銀餡の旨味もじっくりと時間をかけて植物性食材の旨味を抽出されているだと思います。ラーメンとしては少しお高めの価格ですが、精進料理と考えれば決して高くはありません。何より精進料理系ラーメンなんてほかではまず食べられない貴重な料理です。ヴィーガンやベジタリアンの方はもちろん、肉や魚を食べまくっている方やラーメンマニアの方も、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。この味の衝撃度は実際に食べてみないとわからないと思います。
[2019年11月5日訪問]
豆禅
●住所…京都市左京区下鴨高木町13-4(Google マップ)
●TEL…075-703-5731
●定休日…木曜日
●備考…禁煙
●ホームページ
コメント