大進亭
明治・大正・昭和に創業され、京都の先進的な気風の原動力となった洋食店。喫茶店やカフェ(当時はミルクホールと呼ばれたお店も)と並び、京都のモダニズム文化を彩ってきました。しかし時代の流れとともに洋食店自体が減少傾向にあったことに加え、コロナ渦の影響で閉業を決断されたお店も少なくありません。当ブログでREPORTした何軒かのお店だけでなく、REPORTを予定していたいくつかのお店も閉業。当ブログの目的の1つに“飲食店を記録し後世に残す”という遠大な計画があり、仮に閉業されても人々の記憶に残したいと更新を続けています。今回は久しぶりに老舗洋食店を訪問しようと、京都市伏見区へ向かいました。
大手筋通と竹田街道の交差点(竹田街道大手筋)を南へ250mほど行き、東へ80mほど行ったところにある洋食店「大進亭(だいしんてい)」。京阪「中書島駅」からであれば北口に広がる商店街「京都伏見中書島繁栄会」および「竜馬通り商店街」を通って6分程度の場所にあります。このエリアは古くから酒造が発展した地域で、黄桜やキンシ正宗、月桂冠、宝酒造など、全国的に知られた酒造メーカー各社の発祥の地としても有名です。そんな食文化に貢献してきた地で82年もの間、洋食店を営業されています。現在のご店主は4代目だそうで、事業継承が途切れなかった稀有なケースと言えるでしょう。繁盛店ですのでお昼のラストオーダー15時(平日は14時)前の13:30に到着。まずは店頭のメニューを確認してみましょう。
ランチのセットメニューは¥900からラインナップされています。昼でもアラカルトを注文でき、価格帯的にはミドルクラスの洋食店です。とは言えお一人様での利用も多く、人気のカレーライス各種なども本格的な欧風カレーを比較的リーズナブルな価格でいただけます。管理人にとっては久しぶりの訪問で、しばらくは再び伺う機会もおそらくないため「いろいろな料理が食べられるセットメニューがいいなぁ…」と考えながら店内に入ってみました。
赤レンガが印象的なクラシカルな店内です。老舗店の重厚さを感じつつ、カジュアルさもあって堅苦しい雰囲気ではありません。お昼のラストオーダー前にも関わらずほぼ満席。カウンター席も1席空けてお客さんが食事をされていてどうしたものかと足を止めていると、接客担当の奥様からちょうど空いたばかりの4名席に案内していただけました。管理人のような人間に4名テーブル席はもったいないといつも思うのですが、ラストオーダーも近く新規のお客さんは入店されないでしょうから、ありがたく着席させていただきます。では改めてメニューを確認してみましょう。
こちらは「大海老料理」と呼ばれる海老を使った料理にも定評があります。その中でも興味を惹かれたのが「店主おすすめ大海老料理」の「特製Aランチ」¥3,040。大エビフライに一口カツ(ポーク)、ハンバーグ、ボンレスハム、オムレツその他盛り合わせで、ライスとスープ(味噌汁)、ドリンクまたはデザートが付くセットメニューです。当ブログでは1食¥3,000以下というルールを設定しているのですが、¥40オーバーなら許されるレベルでしょう。ちなみに消費税込みで¥3,344となります。メニュー表の他のページでは¥2,840(税抜)の記載も見られますが¥3,040(税込¥3,344)が正解です。本格的な洋食メニューが並び、さすがは酒蔵が多い立地だけあって日本酒も豊富に用意されています。作家でありグルメエッセイの第一人者でもある池波正太郎は、トンカツなどの洋食で日本酒を楽しまれていたそうで、日本酒好きならトライされてみてはいかがでしょうか。老舗洋食店のマダムと呼ぶにふさわしい上品で愛想のいい奥様に「特製Aランチ」を注文します。
「特製Aランチ」が到着しました。¥3,000オーバーにふさわしいゴージャスな陣容です。中央に配された大エビフライに思わず顔がほころびます。ボンレスハムも管理人が普段食べているペラッペラのものではなく、デパ地下などで姿だけは見かける高級タイプです。サラダやトマトとタマネギのマリネなどの野菜も充実。プレートの一番右に置かれた小さなガラスの小鉢の料理は何?と思いながら箸でつまんでみます。
カラリと揚げられたエビの足です。ガラスの小鉢の底に岩塩が仕込んであって、岩塩を少し付けてバリバリといただきます。これは旨い!エビの旨味が凝縮された味わいで、ビールはもちろん、日本酒のツマミとしても最高でしょう。天ぷら店などでエビの殻などを素揚げしたツマミを出してくれるお店がありますが、それと同じようなサービスなのでしょう。普段は食べ残すエビの足のおいしさを味わうことができました。また、これだけ大きなエビフライであればきっと頭も付いていたのだろうなぁ…エビのミソがたっぷり詰まった頭のフライも食べたいなぁ…と思いつつ、いくら厚かましい管理人でも常連客でもないのにメニュー外のものは注文できませんので諦めます。大きなエビフライを提供している洋食店の常連客になればエビの頭のフライを注文できるかも知れませんので、常連意識のある方は一度お店に尋ねてみてください。もちろん断られる場合も普通にありますのであしからず。
大エビフライもカラリと揚げられていて絶品です。老舗洋食店の品質と貫禄を実感できる味わいと言えるでしょう。一口カツ(ポーク)、ハンバーグ、ボンレスハム、オムレツと申し分のない味に心も躍ります。豚汁仕立ての味噌汁も良い箸休めに。ボリュームも満点で、ランチとしては贅沢な価格ながら十分満足できるのではないでしょうか。酒蔵巡りなどの観光地としても人気のエリアで、昭和の京都洋食の実力が感じられるお店です。京阪「中書島駅」や「伏見桃山駅」、近鉄「桃山御陵前駅」が最寄駅ですので、近くまで来られた方はぜひ80年以上受け継がれてきた味を試してみてください。
[2021年2月14日訪問]
大進亭
●住所…京都市伏見区車町276(Google マップ)
●TEL…075-601-1657
●定休日…水曜日
●備考…禁煙
●ホームページ…なし
※詳しくは食べログ「大進亭」で検索してください。
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